大阪地方裁判所 昭和53年(ワ)7122号 判決 1981年3月30日
原告
尾崎英子
外二三名
右原告ら訴訟代理人
大江洋一
同
野村裕
外九名
被告
日本シェーリング株式会社
右代表者取締役
ヨルグ・グラウマン
右訴訟代理人
清水伸郎
外二名
主文
一、被告は、別紙請求債権目録1記載の各原告らに対し、右各原告らに対応する右目録1の(21)の認容額欄に記載の各金員及びそのうち右各原告らに対応する右目録1の(22)欄記載の各金員に対する昭和五二年三月一七日から、同(23)欄に記載の各金員に対する昭和五五年一一月一日から右各支払済に至るまで年五分の割合による金員、並びに、昭和五五年一一月から毎月二五日限り、右各原告らに対応する右目録1の(24)欄に記載の各金員を、それぞれ支払え。
二、被告は、別紙請求債権目録2記載の各原告らに対し、右各原告らに対応する右目録2の(15)欄の認容額欄に記載の各金員及びこれに対する原告尾崎英子の関係では昭和五三年七月四日から、原告柴田裕美子の関係では同五四年三月一日から、原告山本香代の関係では同五五年二月一日から、原告河南啓子の関係では同五三年八月二二日から、原告片桐敏子の関係では同年一月二六日から、右各支払済に至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
三、被告は、別紙請求債権目録3記載の各原告らに対し、右各原告らに対応する右目録8の(19)の認容額欄に記載の各金員及びそのうち右各原告らに対応する右目録3の(20)欄に記載の各金員に対する昭和五三年一二月六日から、同(21)欄に記載の各金員に対する昭和五五年一二月一日から右各支払済に至るまで年五分の割合による金員、並びに、昭和五五年一一月から毎月二五日限り右各原告らに対応する右目録3の(22)欄に記載の各金員を、それぞれ支払え。
四、被告は、別紙請求債権目録4に記載の各原告らに対し、右各原告らに対応する右目録4の(19)の認容額欄に記載の各金員及びそのうち右各原告らに対応する右目録4の(20)欄に記載の各金員に対する昭和五五年四月一一日から、同(21)欄に記載の各金員に対する昭和五五年一一月一日から右各支払済に至るまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。
五、被告は、原告朝広美佐子、同平尾美穂子、同長井幸子に対し、昭和五五年一一月から毎月二五日限り、右各原告らに対応する別紙請求債権目録4の(22)欄に記載の各金員を、それぞれ支払え。
六、原告らのその余の請求を棄却する。
七、訴訟費用はこれを三分し、その二を被告の負担とし、その余を原告らの各負担とする。
八、この判決は、第一項ないし第五項に限り、仮に執行することができる。
事実《省略》
理由
一被告が肩書地に本社を、全国二九ケ所に営業所を置き、西ドイツのシェーリング・AG・ベルリン・ベルクカーメン株式会社から医薬品の輸入をし、また、医薬品の製造販売を業とし、従業員約八〇〇名を擁する株式会社であること、原告らは、いずれも被告の従業員であり、かつ、総評化学同盟日本シェーリング労働組合(日シ労組)の組合員であること、被告には、日シ労組の外、全日本シェーリング労働組合(全日シ労組)と、「職場と生活を守る会」(守る会)なる組織があること、以上の事実については当事者間に争いがない。
二次に、
1 昭和五一年八月六日、日シ労組と被告との間に、(イ)賃金引上げ率を昭和五〇年度基本給に対し、平均8.8パーセントとする、(ロ)賃金引上げ対象者は妥結時在籍者とする、但し、雇員、アルバイト、昭和五一年一月一日以降入社した者及び稼働率八〇パーセント以下の者は除く(本件八〇パーセント条項)、(ハ)新賃金は妥結した月より適用する(妥結月払条項)とする外、原告ら主張の内容による昭和五一年度賃金引上げに関する協定が成立したこと、
2 昭和五二年六月三〇日、日シ労組と被告との間に、(イ)賃金引上げ率を昭和五一年度基本給に対し平均一〇パーセントとする、(ロ)賃金引上げ対象者は妥結時在籍者とする、但し、雇員、アルバイト、昭和五二年一月一日以降入社した者及び稼働率八〇パーセント以下の者を除く、(ハ)新賃金は妥結した月より適用するとする外、原告ら主張の内容による昭和五二年度賃金引上げに関する協定が成立したこと、
3 昭和五三年四月二八日、日シ労組と被告との間に、(イ)賃金引上げ率を昭和五二年度基本給に対し平均八パーセントとする、(ロ)賃金引上げ対象者は妥結時在籍者とする、但し雇員、アルバイト、パートタイマー、昭和五三年一月一日以降入社した者及び稼働率八〇パーセント以下の者を除く、(ハ)新賃金は妥結した月より適用するとする外、原告ら主張の内容による昭和五三年度賃金引上げに関する協定が成立したこと
4 昭和五四年四月二七日、日シ労組と被告との間に、(イ)賃金引上げ率を昭和五三年度基本給に対し、平均8.6パーセントとする、(ロ)賃金引上げ対象者は妥結時在籍者とする。但し、雇員、アルバイト、パートタイマー、昭和五四年一月一日以降入社したもの及び稼働率八〇パーセント以下の者を除く、(ハ)新賃金は妥結した月より適用するとする外、原告ら主張の内容による昭和五四年度賃金引上げに関する協定が成立したこと
5 被告が、別紙請求債権目録1、2記載の各原告らについては昭和五一年度の賃金引上げに際し、同目録3記載の各原告らについては昭和五二年度の賃金引上げに際し、同目録4記載の各原告らについては昭和五三年度及び同五四年度の各賃金引上げに際し、それぞれその稼働率が八〇パーセント以下であつて、右八〇パーセント条項に該当するとして、その賃金引上げの対象から除外し、右賃金引上げ相当額の賃金、これに対応する夏季冬季各一時金、退職金を支払わないこと、
以上の事実については、いずれも当事者間に争いがない。
三八〇パーセント条項の効力
原告らは、本件各協定中、稼働率八〇パーセント以下の者を賃金引上げ対象者から除く旨の条項(本件八〇パーセント条項)は、憲法一三条、二五条、二七条、二八条、労基法三九条、六五条、六六条、六七条、労組法七条に違反し、民法九〇条の公序良俗に違反して無効であると主張するので、以下その点につき検討する。
1 八〇パーセント条項の内容は、前年一月から一二月までの一年間の稼働日数中の所定労働時間から不就労時間を控除した時間を所定労働時間で除したところの稼働率が八〇パーセント以下の者について、賃金引上げ対象者から除外し、賃金引上げを行わないとのものであること、被告は、同条項の適用について、右稼働率の算定の基礎となる不就労時間に、欠勤、遅刻、早退によるものの外、年次有給休暇、生理休暇、慶弔休暇、産前産後の休暇、育児時間、労働災害休業、労働災害の治療のための通院、ストライキ等組合活動によるものを含めて、右稼働率の計算をしていること、以上の事実は当事者間に争いがない。
2 そこで、本件八〇パーセント条項の不就労時間に算入される年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇及び育児時間、労働災害による休業及び通院時間、ストライキその他の組合活動のための時間の法律上の特質等について検討する。
(一) 年次有給休暇
労基法三九条は、労働者が一年以上継続して勤務し、その出勤率が八割以上の場合には六日の年次有給休暇を、その後勤務一年ごとに一日を加算した日数を最高二〇日の限度内において年次有給休暇を与えるべき旨規定しているところ、右規定は、休日の外に毎年一定日数の有給休暇を労働者に与えることによつて、労働者の心身の疲労を回復させ、労働力の維持培養を目的としたものである。
しかして、右年次有給休暇は、単に使用者からの恩恵として与えられるものではなく、年次有給休暇の権利は、労基法三九条一、二項の要件が充足されることによつて、法律上当然に労働者に生ずる権利であつて(最高裁判所昭和四八年三月二日・民集二七巻二号一九一頁)、右年次有給休暇日に就労したときは一定の金銭等を支給する旨のいわゆる年次有給休暇の買上げ契約や、その他右年次有給休暇を放棄する旨の契約は、労基法三九条一、二項に違反して無効であると解すべきであるし、また、年次有給休暇を取得した場合には、その日数に応じて相当多額の収入減少を伴うことが予め定められている契約は、年次有給休暇の買上げと同様の効果があるから、労基法三九条一、二項に違反するか或いは民法九〇条の公序良俗に違反するものとして無効と解すべきであるし、さらに、年次有給休暇日を取得せずに稼働した場合には、特別の賞与を支払う旨の契約も、労働者において年次有給休暇を取ることを差控える傾向を招くことになり、間接的に年次有給休暇の取得を抑制することになるから、労基法三九条一、二項に違反することを免がれないと解すべきである。従つて、労働者が年次有給休暇をとつたことを理由に、賃金引上げその他において不利益な取扱いをすることは、労基法三九条一、二項に違反し、許されないものというべきである。
(二) 生理休暇
労基法六七条は、生理日の就労が著しく困難な女子又は生理に有害な業務に従事する女子が生理休暇を請求したときは、その者を就業させてはならない旨規定しているところ、右規定は、女子特有の生理現象及びその後の肉体に及ぼす影響を考慮して定められた女子労働者に対する保護規定である。女子の生理日における労働がその健康に影響を及ぼすか否かについては、医学上議論の存するところではあるが、労基法六七条が、請求のある場合に女子の生理日における就労を禁止していることは、女子労働者が生理日に休暇を取る権利を法律上認めたものというべきであるから、右生理休暇に関する権利行使をしたことを理由に、賃金引上げその他において不利益な取扱いをすることは許されないものといわなければならない。もつとも、生理休暇中の賃金の支払に関しては、労働契約や就業規則によつて任意に定めることができるから、女子労働者の全部について、一律に生理休暇中の賃金を支払わない旨定めることも違法ではないのであるが、この取扱いは、有償双務の雇傭契約の特質上、生理休暇により労働をしないことに対する当然の結果であり、何ら法律上の不利益な取扱いではないというべきであるし、また一方、生理休暇日に対しても賃金を支払うことは、単に使用者の恩恵的措置に過ぎないものというべきである。しかし、右賃金の外に、生理日に出勤した女子に超過勤務手当を支給するなど特別の手当を支給することは、生理休暇の取得を抑制することになりかねないから、労基法六七条に違反して許されないものと解すべきである。
(三) 産前産後の休暇
労基法六五条は、産前及び産後の各六週間以内に(但し、産前の六週間と産後の五週間以後は請求のあつた場合に限る。)、女子労働者を就労させてはならない旨規定しているところ、右規定は、母性を保護するための保護規定であり、産前産後の休暇は、古く旧工場法や鉱業法においても認められていたものである。産前産後の休暇を取得することは、法律上女子労働者に認められた権利であるから、産前産後の休暇によつて休業した期間は、労基法三九条一項の年次有給休暇に関する規定の適用については出勤とみなされるし(同条五項)、また、使用者は、産前産後の女子が右労基法六五条の規定によつて休暇をとつている期間及びその後三〇日間は、解雇をしてはならない法律上の義務を負つている外(労基法一九条)、女子労働者が産前産後の休暇をとつたことを理由に、賃金引上げその他において不利益な取扱いをしてはならないと解すべきである。もつとも、産前産後の休暇中の賃金を支払うか否かは、生理休暇の場合と同様に、労働契約や就業規則で自由に定めることができるのであつて、産前産後の休暇中の賃金を支払わない旨定めることも、勿論適法ではあるが、これは、双務有償である雇傭契約の性質上労働をしないことに対する当然の結果で、何ら不利益な取扱いではないというべきである。
(四) 育児時間
労基法六六条は、生後満一年に達しない生児を育てる女子から請求があつた場合には、正規の休憩時間(労基法三四条の休憩時間)の外、一日二回各々少くとも三〇分間、当該女子労働者を使用してはならない旨規定しているところ、右各規定は、女子労働者が生後一年未満の生児を育てている場合において、育児時間を与えられなければ、休憩時間中に補乳をしたり、その世話をしなければならないところから、生児に授乳その他の世話をするための時間と、一般の休憩時間とを別に確保し、あわせてかかる女子労働者に対し、作業から離脱できる余裕を与えるために設けられた保護規定である。女子労働者が右育児時間をとることも法律上認められた権利であるから、使用者は、女子労働者が右育児時間をとつたことを理由に賃金引上げその他において不利益な取扱いをしてはならないものというべきである。なお、育児時間中の賃金については、月給もしくは日給の場合には、原則として差引くことは許されず、ただ時間給の場合にのみ、労働契約等でこれを差引くことができるものと解すべきである。
(五) 労働災害による休業及び通院時間
使用者は、労働者の労働によつて収益をあげている以上、その労働に伴う災害について責任を負うべきは当然である。そして、労基法七五条は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない旨規定し、同法七六条は、労働者が業務上の災害による療養のため、労働することができない場合には、使用者は、労働者の療養中平均賃金の六〇パーセントの休業補償を行わなければならず(同条一項)、また、労働災害を受けて休業補償を受けている労働者の補償額にくらべ、同一事業場における同種の労働者の通常の一定期間における平均賃金額が、一二〇パーセントを超え、又は八〇パーセントを下るに至つた場合には、右林業補償の額を右比率に応じて改定しなければならない(同条二項)旨規定し、さらに、同法七七条は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、なおつたとき身体に障害が存する場合には、その障害の程度に応じて、平均賃金に一定率を乗じた金額の障害補償を行なわなければならない旨規定しており、同法一九条は、使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり、療養のため休業する期間は、解雇してはならない旨規定し、さらに同法三九条五項は、業務上災害による休業は、同条一項の年次有給休暇の計算に当つては、出勤したものと看做す旨規定している。しかして、これらの労基法の各規定に照らせば、労働者が労働災害を受けた場合には、使用者は、その過失の有無を問わず、極力右労働災害により労働者の被つた損害の補償に努めるべきであり、使用者に過失がある場合には、民法等の規定により、労働者の被つた全損害を賠償すべき義務があるものというべきである。従つて、労働者が労働災害によつてかかつた傷害や疾病のため、やむなく休業をし、或いは、通院した場合において、その不就労を理由に、その後の賃金引上げやその他の点において、他の労働者と差別をし、不利益な取扱いをしてはならない義務を負うことは当然である。そして、前記休業補償のスライド制を認めた労基法七六条二項の趣旨に照らして考えれば、労働災害の経済事情の変動等のため、同一事業場における同種の労働者の賃金が上昇した場合には、使用者は、労働災害により休業していた労働者がその後就労するに至つた際の賃金も、当然に右上昇割合に応じて上昇させるべき法律上ないし条理上の義務があるものとすべきであつて、右労働災害による休業や通院による不就労を理由として、賃金引上げを拒否することは、右労基法の各規定の趣旨に照らして許されないものというべきである。
(六) ストライキ・団体交渉及びその他組合活動
労働者が使用者に対する要求を貫徹するため、ストライキや団体交渉を行うことは、憲法二八条で保障された権利であつて、労働者がストライキや団体交渉を行つたことを理由として、その労働者に対し不利益な取扱いをすることの許されないことは勿論である(労組法七条)。しかして、労働者がストライキや団体交渉を行なつたために就労をしなかつた場合において、右不就労に対応する賃金を支払わないことは、有償双務契約である雇傭契約の性質上何ら不利益な取扱いではないが、ストライキや団体交渉中の不就労を理由として、その将来における賃金引上げを拒否し、或いは、他の労働者との間に差別を設けて不利益な取扱いをすることは、結局、ストライキや団体交渉を理由にした不利益な取扱いであつて許されないものというべきである。けだし、ストライキや団体交渉と不就労とは表裏一体の関係にあり、ストライキや団体交渉には必然的に不就労を伴うので、ストライキや団体交渉中の不就労を理由とした不利益な取扱いはとりもなおさずストライキや団体交渉そのものを理由とした不利益な取扱いに外ならないからである。
なお、ストライキや団体交渉以外の日常の組合活動については、使用者の承認を得た場合、労働者が雇傭契約の義務の履行としてなすべき身体的精神的活動と何ら矛盾なく両立し、義務に支障を及ぼすおそれのない場合、その他緊急の必要性がある場合は格別、それ以外の場合の日常の組合活動は、勤務時間外になさるべきであるから、右例外的な場合を除く勤務時間中の日常の組合活動による不就労を他の一般の欠勤による不就労と同様に取扱い、本件八〇パーセント条項の不就労時間に算入することは何ら違法ではないというべきである。
3 以上の通り、年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇及び育児時間を取得することは、労基法三九条、六七条、六五条、六六条により労働者に認められた権利であるから、使用者は、労働者が右権利を行使して年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇及び育児時間を取得して就労をしなかつたことを理由に不利益な取扱いをしてはならないし、さらに使用者は、労働災害による休業及び通院による不就労についても、労基法七五条、七六条、七七条、一九条、三九条(五項)等の規定の趣旨に照らし、右不就労を理由に不利益な取扱いをしてはならず、さらに、ストライキや団体交渉による不就労についても、憲法二八条、労組法七条の規定により右不就労を理由に不利益な取扱いをしてはならないというべく、このことは、右不利益を受けるにつき労働者の包括的な承諾があつた場合も同様に解すべきである。けだし、右労基法等で保障された権利行使を理由に不利益な取扱いを承諾することは、強行法規である右労基法等が右権利を保証した趣旨に反することになるし、また、現実にも労働者にその権利行使を抑制させる結果を招くことになるからである。
ところで、本件八〇パーセント条項は、前記の通り年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇、育児時間、労働災害による休業及び通院時間、ストライキ、団体交渉等による不就労を、稼働率を算出するための不就労時間に算入し、その不就労時間と他の不就労時間とを合わせた合計が、全労働時間の二〇パーセントを超えるときには、賃金引上げの対象から除外する旨定めたものであるから、本件八〇パーセント条項は、結局、前記労基法その他の法律上認められた年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇、育児時間等をとり、労働災害による休業及び通院をし、ストライキ、団体交渉等をしたことを理由にした不利益な取扱いを定めたものというべきであるし、また、右条項は、労働者をして、爾後右各権利行使による休暇を取得し、休業及び通院をし、ストライキ、団体交渉等をすることを抑制する機能を有しているものというべきである。
そして、本件八〇パーセント条項の現実の適用の面においても、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、(1)昭和五一年度の賃金引上げにおいて本件八〇パーセント条項に該当するとして賃金引上げを拒否された別紙請求債権目録1、2記載の原告ら一七名のうち、原告土居、同森本を除くその余の原告ら一五名は、被告会社の勤務中労働災害を受け、頸肩腕障害労災認定患者であるところ、いずれもその稼働率を算出するための不就労時間(日)に、労働災害による休業ないし通院が含まれており、原告西村、同土居、同河南、同片桐の不就労時間には、産前産後の休暇が含まれていること(原告西村、同河南、同片桐は、労働災害による不就労と産前産後の休暇の両方が含まれている)、従つて、昭和五一年度において、本件八〇パーセント条項に該当するとして賃金引上げを拒否された原告らの大部分は、年次有給休暇や生理休暇の外に、労働災害による休業や通院、産前産後の休暇をとつたものであること、(2)なお、原告朝広は、昭和五一年度ないし同五三年度の三年間、続けて右労働災害による通院による不就労があつたため本件八〇パーセント条項に該当するとしてその賃金引上げを拒否されたこと、(3)本件八〇パーセント条項が設けられてからは、その賃金引上げの拒否されることを回避するため、年次有給休暇や生理休暇をとるものが従前にくらべて減少し、また、日シ労組では、ストライキを行うに当つても、年次有給休暇の残存日数を考慮しなければならない状況となり、これらの権利行使が抑制されるようになつたこと、以上のような事実が認められ、右認定に反する証拠はない。そうだとすれば、本件八〇パーセント条項は、その現実の運用面においても、労働者が前記労基法その他の法律で認められている権利行使をしたため賃金引上げにおいて不利益な取扱いを受け、或いは、その権利行使を抑制する結果を招いているものというべきである。
従つて、本件八〇パーセント条項は、強行法規である前記労基法三九条、六七条、六五条、六六条、七五条、七六条、七七条、一九条、憲法二八条、労組法七条等の各規定ないしはその規定の趣旨に違反し、ひいては民法九〇条の公序良俗に反するものというべきであるから、当然無効というべきである。
4 もつとも、
(一) 被告は、労基法三九条は、労働者の年次有給休暇権の行使を妨げる措置をとつてはならない旨の不作為義務を使用者に課したものではないとし、賞与の算定や昇給の資料に年次有給休暇の消化日数を用いても違法ではないから、本件八〇パーセント条項は、労基法三九条、民法九〇条の公序良俗に違反しないと主張している。しかしながら、前述の如く、年次有給休暇の取得権は、労基法によつて認められた権利であるから、使用者は、同法三九条三項による時季変更権を行使する場合は格別、それ以外の如何なる場合にも、その行使を妨げてはならず、また、右年次有給休暇を取得したことを理由に、賃金引上げ等において差別することは、右権利の行使を妨げる結果になるから、許されないものというべきである。よつて、右被告の主張は失当である。
(二) 次に、被告は、労基法は、生理休暇の有給を保障しておらず、また、その無給を禁止しているわけではないから、生理休暇取得者に対して手当を支給せず、又は、これを減額する結果となり、生理休暇の取得を抑制する事態が生じても違法ではないとし、生理休暇を八〇パーセント条項の不就労日に算入することは違法でないと主張している。しかしながら前述の通り、生理休暇は、労基法六七条が女子労働者に認めた権利であるから、使用者がその権利の行使を抑制することは許されないと解すべきところ、生理休暇をとつたことを理由に賃金引上げについて差別を設けて不利益に取扱うことは、生理休暇を取得することを抑制する結果をもたらすことになるから許されないものと解すべきであり、このことは、労基法が生理休暇を有給としなかつたからといつて左右されるものではないと解すべきである。よつて、右の点に関する被告の主張も失当である。
(三) 次に、被告は、女子労働者が産前産後の休暇及び育児時間をとつたことを理由に不利益な取扱いをすることを禁止した法律はないのみならず、被告会社では、産前産後の休暇及び育児時間の取得による不就労についても賃金を支払つているから、これを本件八〇パーセント条項の不就労日に算入しても違法ではないと主張している。しかしながら、前述の通り、労基法六五条、六六条が女子労働者に産前産後の休暇及び育児時間を保障した趣旨からすれば、産前産後の休暇及び育児時間をとつたことを理由に賃金引上げ等において不利益な取扱いをすることを禁止したものと解すべきである。けだし、このように解されなければ、使用者はもともと労基法六五条、六六条の規定をまつまでもなく、憲法一八条により、その意に反して産前産後及び育児時間に女子労働者を強制的に就労させることはできないのであつて、労基法六五条、六六条で産前産後の休暇及び育児時間をとる権利を保障した趣旨が失なわれるからである。
なお、産前産後の休暇及び育児時間を有給にすることと、産前産後の休暇及び育児時間をとつたことを理由に将来の賃金引上げにおいて差別することとは全く別の事柄であつて、産前産後の休暇及び育児時間を有給にしたからといつて、そのことから、将来の賃金引上げにおいて差別をすることが合法となるものではない。けだし、産前産後の休暇及び育児時間を有給にすることは、使用者が恩恵的にしたに過ぎないのみならず、労働と賃金は対価関係に立つものであるから、産前産後の休暇及び育児時間を無給とすることも、双務有償の雇傭契約の性質から当然に許されるべきことであるのに対し、産前産後の休憩及び育児時間をとつたことによる賃金引上げの差別は、当該労働者が退職するまで影響するのみならず、右による不就労と賃金引上げの拒否とは対価関係に立たないからである。
よつて、右の点に関する被告の主張も失当である。
(四) 次に、被告は、労基法七五条は、使用者に療養補償義務を課した規定に過ぎず、労働災害による休養及び通院についても、労基法三九条五項により年次有給休暇の取得にあたつて特別の算定方法を定め、不利益な取扱いを回避させようとしているに過ぎないとし、また、被告会社では労働災害による休業及び通院については全額賃金の支払をしているから、労働災害による休業及び通院を本件八〇パーセント条項の不就労時間に算入することは何ら違法ではないと主張している。しかしながら、前述の通り、労働災害による休業及び通院については、労基法七五条、七六条、七七条、三六条、三九条の規定の趣旨から、右による不就労を理由に賃金引上げ等において差別することは許されないものと解すべきであるし、また、被告が右労働災害による休業及び通院については賃金を全額支払つているからといつて、そのことを理由に、将来の賃金引上げについて差別をし、これを拒否することは、労働者が労働中の災害によつて休業及び通院を余儀なくされているという労働災害の特質に照らして許されないばかりでなく、労基法七六条の規定の趣旨に照らしても許されないものというべきである。
よつて、右の点に関する被告の主張も失当である。
(五) 次に、被告は、ストライキについては、賃金請求権は発生せず、賞与の支給に当り、労務の不提供の範囲で減額することは適法であるから、右ストライキによる不就労を本件八〇パーセント条項の不就労時間に算入することは適法であると主張している。成程、ストライキによる不就労については賃金請求権が発生しないけれども、このことと、ストライキによる不就労を理由に賃金引上げについて差別しこれを拒否することとは別個の事柄であつて、前述の通り、ストライキによる不就労を理由に賃金引上げについて差別することは、ストライキという争議行為を理由とした不利益な取扱いというべきであるから、許されないものというべきである。
よつて、右の点に関する被告の主張も失当である。
(六) なお、被告は、一〇年勤続の女子従業員が年次有給休暇二一日を全部とり、生理休暇を毎月二日ずつ年間二四日とつたとしても、その稼働率は、83.3パーセントとなつて、本件八〇パーセント条項に該当しないし、現実に右八〇パーセント条項に該当するとして賃金引上げ対象から除外されたものは極めて少ないこと等を一事由に、本件八〇パーセント条項は有効であると主張している。
ところで<証拠>を総合すると、右稼働率の計算は、各賃金引上げをすべき年の前年度の一月から一二月までの所定労働時間及び不就労時間を基礎にしてなされるものであるところ、それを昭和五一年度協定についてみれば、昭和五〇年度の所定労働日数は、年間歴日数三六五日から被告の就業規則で規定する年間休日日数約九五日を差引いた約二七〇日であり、その二〇パーセントは約五四日であるから、一年間に右約五四日以上就労しなかつた者が右八〇パーセント条項の適用を受け、賃金引上げの対象から除かれたこと、そして、昭和五二年度ないし五四年度においても、一年間に右とほぼ同一日数就労しなかつた者が右八〇パーセント条項の適用を受けたこと、以上の事実が認められ、これに反する証拠はない。従つて、女子労働者が労基法三九条に定める年次有給休暇の最大限である二一日をとり、生理休暇を毎月二日ずつ年間二四日とつたとしても、未だ本件八〇パーセント条項によつて賃金引上げの対象から除外される者に該当しないことは明らかである。
しかしながら、本件八〇パーセント条項の不就労時間には、前述の通り、年次有給休暇や生理休暇による不就労の外、産前産後の休暇及び育児時間、労働災害による休業及び通院時間、ストライキや団体交渉等による不就労も含まれ、これらの不就労や年次有給休暇、生理休暇による不就労が合計二〇パーセント以上になつたときは、賃金引上げの対象から除外されることになる。例えば、労基法三九条五項では、労働災害で休業した期間や、同法六五条で認められている産前産後の休暇期間は、年次有給休暇に関する同条一項の適用関係では出勤したものとみなされるのに、本件八〇パーセント条項では、これらはすべて不就労(欠勤)として扱われるから、労働災害による休業及び通院や産前産後の休暇として年間に五十数日を取れば、もはや年次有給休暇をとることもできず、年次有給休暇をとれば、本件八〇パーセント条項では不就労(欠勤)として扱われ、同条項に該当するとして賃金引上げの対象から除外されることになるが、このような取扱いは前記労基法に違反するものといわなければならない。従つて、本件八〇パーセント条項は、前述の労基法等の規定ないしはその趣旨に違反し無効というべきである。
なお、被告主張の如く、被告会社において、現実に本件八〇パーセント条項に該当するとして、賃金引上げの対象から除外されるものが極めて少ないからといつて、右条項が有効となるものでないことは勿論である。
よつて、右の点に関する被告の主張も失当である。
(七) また、被告は、本件八〇パーセント条項は、原告らの所属する日シ労組自身が被告との団体交渉の結果、これを承諾し、労働協約の重要な一事項として確約したものであり、しかも他の組合である全日シ労組も被告と同じ内容の協定を結び、その結果右協定は被告会社において定着していると主張し、また、本件八〇パーセント条項は、被告の業績が悪化したところから、従業員の稼働率を上げ、被告の業績を向上させる目的でなされたものであるとして、本件八〇パーセント条項は、有効であると主張している。
しかしながら、前述の通り、年次有給休暇、生理休暇、産前産後の休暇及び育児時間を取得することや、労働災害による休業及び通院をし、ストライキ、団体交渉等をすることは、強行法規である労基法その他の法律によつて保障された権利であるから、労働者において現実にこれを行使するか否かの自由はあるにしても、労働者が使用者との契約により、予めこれを行使しないことを約したり、或いは、右各権利を行使したことを理由に、賃金引上げその他において差別され不利益な取扱いを受けることを承認することは、前述の強行法規である労基法その他の法律等に違反するものであつて、右契約は無効というべきである。ましてや、右各権利を有する個々の労働者ではなく、その労働者の所属する労働組合が、使用者との団体交渉において、個々の労働者の意思とは関係なく、各労働者が、その固有する右各権利を行使したことを理由に、その後の賃金引上げ等において不利益な取扱いを受けることを認める趣旨の協定を締結することは許されず、右協定を締結しても、前記労基法等の各規定に違反して無効というべきであり、このことは、被告主張の如く右協定が被告会社において定着しているとしても変りはないというべきである。
また、被告の経営が、被告主張の如く悪化していたとしても、その業績を上げるため、労基法等に違反する本件八〇パーセント条項を設けて従業員の稼働率を上げることは許されず、右稼働率を上げるためには、労基法による休暇以外のいわゆる欠勤を少なくするとか、労働災害が起きないように職場を改善するとか、要するに労基法等に牴触しない他の方法をもつて行うべきであるから、被告主張の目的の正当性から、本件八〇パーセント条項を有効なものと認めることはできない。
よつて、右の点に関する被告の主張も失当である。
(八) さらに、被告は、原告らの不当労働行為の主張との関連において、本件八〇パーセント条項については、昭和五一年度にこれが設けられて以後、原告らの所属する日シ労組は、これが適用されることについて異議を述べないとの協定も再三締結しているから、その不当性は治癒されているし、禁反言の法理からも、その無効を主張することは許されないとの趣旨の主張もしているが、前記労基法等の強行法規や民法九〇条の公序良俗に違反して無効な本件八〇パーセント条項が、その後の日シ労組のいわゆる追認によつて有効となるものではなく、また、日シ労組が右条項の有効性を追認したとしても、右日シ労組と法的人格を異にする原告らが、本訴において、もともと無効な右条項の無効を改めて主張することは何ら禁反言に反するものではないというべきである。よつて、右の点に関する被告の主張も失当である。
四本件各協定中賃金引上げ部分等の効力
1 次に、被告は、本件八〇パーセント条項が無効であるとすれば、賃金引上げを認めた本件各協定全部が無効であると主張している。すなわち、本件八〇パーセント条項は、賃金引上げ額と一緒にされ、共に協約の規範的部分を構成しているから、本件八〇パーセント条項が違憲・違法・無効である場合には、右条項は、賃金引上げについて不法な条項をつけたこととなり、この条項をつけた賃金引上げに関する本件各協定は、民法一三二条によりその全部が無効であるし、また、被告は、右八〇パーセント条項の有効なことを本件各協定の要素として本件各協定を締結したから、本件八〇パーセント条項が無効であるならば、本件各協定は、その要素に錯誤があつて無効であると主張している。そして、<証拠>によれば、被告は、日シ労組との団体交渉において、日シ労組が被告の提案する本件八〇パーセント条項を受諾したので、賃金引上げを含む本件各協定を締結したものであつて、日シ労組が本件八〇パーセント条項を受諾しなければ、本件各協定を締結しなかつたことが一応認められる。
2 しかしながら、右事実のみから、本件八〇パーセント条項が有効なることをいわゆる停止条件として本件各協定が締結されたものとは認め難く、他に右事実を認め得る証拠はない。却つて、<証拠>によれば、本件八〇パーセント条項は、本件各協定中の賃金引上げ率、その配分方法、諸手当、実施時期、その他の協定条項のうちの一つとして定められているに過ぎず、しかも、本件各協定による賃金引上げの非対象者として、雇員、アルバイト、新入社員等と同列に取扱われているに過ぎないこと、そして本件各協定中には、本件八〇パーセント条項が有効なることを条件として本件各協定を締結する趣旨や、右条項が無効であれば本件各協定はその効力を生じない趣旨を現わした部分は何らないこと、以上の事実が認められる。してみれば、本件各協定は、本件八〇パーセント条項が有効なることを停止条件としたものとは認め難く、却つて、被告は、日シ労組が本件八〇パーセント条項を受諾したので本件各協定を締結するに至つたものであつて、その関係は、一般の契約において契約条件につき双方が合意に達したために契約が締結された関係と何ら変らないというべきである(この場合、通常は契約条項の一つの有効であることが契約全部の効力発生の条件となつているものではない)。したがつて、本件各協定が停止条件付であつたとし、これを前提として本件各協定全部が無効であるとの被告の主張は失当である。
3 次に、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、日シ労組は、昭和五一年四月に被告が本件八〇パーセント条項を提案して以来その違法不当を主張して撤回を求めたが、被告は、これを拒否し、本件八〇パーセント条項を受け入れなければ、賃金引上げに応じない旨の態度を固持していたために、日シ労組は、やむなく一応これを受諾したこと、しかし、日シ労組は、当初から本件八〇パーセント条項は違法・不当なものと考えていたので、昭和五一年度及び同五二年度における本件各協定を締結した後、本件八〇パーセント条項は違法・不当であるから、後日これを取上げて争う旨の意思を表明し、その旨被告に通告していること、そして、別紙請求債権目録1、2記載の原告らは、昭和五二年三月八日、昭和五一年度の本件協定中八〇パーセント条項は違法無効であるとして、昭和五一年度の賃金引上げ相当の賃金の支払を求める本訴(昭和五二年(ワ)第一一六八号)を提起したところ(右訴提起の日は本件記録上明らかである)、昭和五二年度ないし同五四年度の本件各協定はいずれも右訴訟中に締結されたものであること、以上の事実が認められる。しかして、以上の事実に弁論の全趣旨を総合すれば、被告は、本件八〇パーセント条項を有効なものと考えて本件各協定を締結したけれども、日シ労組は、必ずしもこれを有効なものと考えて本件各協定を締結したものではないと認めるのが相当である。してみれば、本件各協定は、その当事者双方が一致して本件八〇パーセント条項を有効なものとし、このことを本件各協定の内容・要素として締結したものではないというべきであつて、本件八〇パーセント条項が有効なことは本件各協定の要素とはなつていなかつたから、本件各協定には被告主張の如き要素の錯誤はないというべきである。
なおまた、本件各協定のうち八〇パーセント条項が労基法等の強行法規や公序良俗に反して無効なことを前提とした錯誤を理由に、本件各協定全部の無効を認めることは、右労基法等の強行法規によつて経済的弱者である労働者を保護しようとした法の趣旨に反して許されないものと解すべきである。けだし、一般に、契約締結に際し、借地借家法やその他経済的弱者の保護のために設けられた強行法規に反する条項を含む契約条項を自ら持出してその条項による契約を締結させておきながら、その後になつて右強行法規に反する条項が無効であることを理由に、契約の要素に錯誤があるとして、契約全部の無効の主張を許すことは、右強行法規によつて経済的弱者を保護しようとした法の趣旨に反して許されず、右の場合は当該強行法規違反の条項(例えば借地借家法に違反する部分)のみが無効になると解すべきところ、本件の場合もこれと同様に解すべきであるからである。
従つて、以上いずれにしても、本件各協定が要素の錯誤により無効であるとの被告の主張は失当である。
4 しかして、一般に、契約の一部が強行法規違反等の理由により無効な場合には、右強行法規の規定の趣旨や条理、当事者の意思その他により、これを合理的に解釈して、その契約全部が無効となるか否かを判断すべきところ、本件八〇パーセント条項を無効ならしめる前記労基法等の各規定は、いずれも経済的弱者である労働者保護の規定であつて、これに違反する条項を含む契約がなされた場合には、当該条項のみを無効とするのが右各規定の趣旨に合致する場合が多いといえるし、また、本件八〇パーセント条項が無効なために、本件各協定全部が無効になるとすれば、日シ労組の賃金引上げ要求に基づく交渉が、当事者双方の予期しない事情のため本件各協定の成立後中断され、賃金引上げのなされないままの状態となつて、日シ労組側にとつて極めて不利益となるのに対し、被告は、前記の如く違法な本件八〇パーセント条項を持出したことにより、現在まで賃金引上げ交渉を遷延して賃金引上げを免がれたことになつて不当に利益を得たことになるし、さらに、弁論の全趣旨によれば、被告は、本件原告ら以外の日シ労組の組合員については、本件各協定が有効なものとして、既に本件各協定による賃金引上げを実施し、現実に右賃金引上げ相当の賃金を支払つていることが認められるのであつて、これらの諸点や前記3に認定の諸事情その他本件における諸般の事情を総合して考えると、本件八〇パーセント条項が無効なために、賃金引上げを含むその本件各協定の全部が無効であると解するのは著しく不合理であるから、本件八〇パーセント条項は無効ではあるが、それ以外の本件各協定中後記妥結月払条項を除くその余の条項はすべて有効と解するのが相当である。
五妥結月払条項の効力
1 団体交渉も、一種の取引であるから、団体交渉において労使の双方がその要求や回答の内容に如何なる条項を持出しても、原則として自由であつて、賃金引上げの実施時期を交渉妥結の日からとする旨の条項も、賃金引上げの実施時期が最終的には労使の合意によつて決定されるべきものであるところからすれば、これを取上げて直ちに違法とすることはできない。しかしながら、右要求や回答の一部に強行法規違反のものがあり、相手方がその受諾をしなければ賃金引上げ交渉は妥結させないとの態度を堅持しながら、賃金引上げの実施時期を妥結の月からすることは、右強行法規秩序を乱すことにもなりかねないし、また、当事者双方の公平ないし信義則にも反することになるから、違法たるを免がれないと解すべきである。
2 これを本件についてみるに、<証拠>を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、原告らの所属する日シ労組は、昭和五一年度の賃金引上げについて、同年三月二二日、被告に対し、基本給の二四パーセントと一律一万円の賃金引上げ等を内容とした賃金引上げ要求をしたところ、被告は、同年四月一五日、賃金引上げ額については昭和五〇年度の基本給の八パーセントとする旨の回答をした外、右賃金引上げの対象者を稼働率の八〇パーセント以上の者とする旨の本件八〇パーセント条項及び賃金引上げの時期を交渉妥結の月からとする旨の妥結月払条項を持出し、その受諾を求めたこと、これに対し、日シ労組は、右被告の提案、殊に八〇パーセント条項は受け入れられないとして、被告と団体交渉を重ねていたこと、その後被告は、同年五月一八日、日シ労組に対し、本件八〇パーセント条項を含む会社回答案による妥結調印を求め、そのための団体交渉を日シ労組に申入れ、その後は、被告において右回答の内容を変える意思はないとし、被告の回答案で妥結するのでなければ賃金引上げの団体交渉に応じないとの態度を固執し、右賃金引上げの団体交渉に応じようとしなかつたこと、これに対し、日シ労組は、被告に右八〇パーセント条項の撤回を求め続けたが、被告の態度が固い上、賃金引上げの実施時期が遅れて組合員の経済生活が窮してきたことや、日シ労組の組合員以外の従業員については既に賃金引上げが実施され、昭和五一年度の夏季一時金も支給されていること、さらには、本件妥結月払条項の関係から妥結が遅れれば遅れる程賃金引上げの実施時期が遅れることなどから、昭和五一年八月六日、被告と団体交渉を持ち、昭和五一年度の賃金引上げに関する会社の回答案を受け入れ、昭和五一年度の本件協定を締結したこと、日シ労組は、昭和五二年度の賃金引上げについても、同年三月八日、被告に対しその要求を提出したところ、被告は、同年四月二〇日に有額回答をしたが、被告の右回答中には昭和五一年度の場合と同様に八〇パーセント条項及び妥結月払条項があり、日シ労組が強くその撤回を求めたのに対し、被告は日シ労組が右各条項を受諾しなければ賃金引上げ交渉を妥結させない旨の態度を堅持したため、その妥結が遅れ、同年六月三〇日に至つて漸く右賃金引上げ交渉は妥結し、昭和五二年度の本件協定が締結されたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。
してみれば、日シ労組の被告に対する昭和五一年度及び五二年度の賃金引上げ交渉の妥結が遅れたのは、主として被告が本件八〇パーセント条項を提案し、日シ労組においてこれを受諾しなければ交渉を妥結させないとの強い態度を固執し、日シ労組も右条項の受諾を拒否していたことによるものというべきである。
3 そしてまた、<証拠>を総合すると、本件各協定による賃金引上げのなかには、定期昇給とベースアップ分が含まれているところ、被告の賃金規則では、定期昇給は毎年四月に実施する旨定められており(第四九条)、これが個々の労働者との労働契約の内容となつていること、そして、被告会社では、昭和五〇年度までは、定期昇給もベースアップ分も一緒にして毎年四月一日から実施されていたところ、昭和五一年度に突然妥結月払条項が持ち出されたこと、以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。しかして、このように、被告が、従前の取扱慣行を変更し、昭和五一年度から賃金引上げの時期を四月一日とせず、賃金引上げ交渉の妥結したときからとしなければならない合理性のあつたことについては的確な証拠はない。却つて、前記の如く、被告が昭和五一年度の賃金引上げ交渉の時から始めて本件八〇パーセント条項を持出し、これと同時に賃金引上げの実施時期を交渉の妥結した月からする妥結月払条項を持出したところからすると、妥結が遅れたことによる不利益を組合側に帰属させることにより、組合側に右八〇パーセント条項を早期に受諾させるための右交渉の一手段として妥結月払条項を持ち出したものと推認せざるを得ないのである。
4 しかして、本件八〇パーセント条項は、前述の通り、強行法規に違反して無効であるところ、被告において、かかる強行法規違反の条項を持出し、これを受諾しなければ賃金引上げ交渉を妥結させないとの態度を堅持し、それと同時に賃金引上げの実施時期を交渉の妥結した月からとすることは、組合に強行法規違反の無効な条項の受諾を強要しつつ、組合がこれを受諾するまで賃金引上げの時期を遅らせるものであつて強行法規秩序や信義則に反するものというべきであるから、昭和五一年度及び同五二年度の本件各協定中の右妥結月払条項は、この点で無効というべきである。また、前述の如く、日シ労組が本件八〇パーセント条項及び妥結月払条項を受諾するに至るまでの被告の団体交渉態度は、使用者としての誠実な団体交渉を怠り、ひいては日シ労組の組合運営に対する支配介入ともなるのであつて、不当労働行為を構成するものと認めるのが相当であるから、昭和五一年度及び同五二年度の本件各協定中の妥結月払条項は、この点でも無効というべきである。
なお、前記四に述べたところと同一の理由により、右妥結月払条項が無効であつても、右妥結月払条項及び八〇パーセント条項を除くその余の本件各協定の条項が有効であることは勿論である。
六原告らに対する未払賃金等
1 以上の通り、昭和五一年度ないし昭和五四年度の賃上げに関する本件各協定のうち八〇パーセント条項及び昭和五一年度、五二年度の各協定のうち妥結月払条項はいずれも無効であるが、その余の条項はいずれも有効というべきであり、また、前述の通り、被告の賃金規則では、定期昇給は毎年四月に実施することとなつており、被告会社では、従前は、毎年四月一日から賃金引上げが実施されていたのであるし、さらに<証拠>によれば、日シ労組は、昭和五一年度以降の賃金引上げについても、毎年四月一日からの実施を要求していたことが認められる。してみれば、他の特段の合意等の認められない本件では、別紙請求債権目録1、2記載の各原告らは昭和五一年四月一日から昭和五〇年度の基本給に対し平均8.8パーセント、定率配分4.4パーセント、同目録3記載の各原告らは昭和五二年四月一日から昭和五一年度の基本給に対し平均一〇パーセント、定率配分6.9パーセント、同目録4記載の各原告らは、昭和五三年四月一日から昭和五二年度の基本給に対し平均八パーセント、定率配分5.4パーセント、同五四年四月一日から昭和五三年度の基本給に対し平均8.6パーセント、定率配分5.4パーセントの割合で、それぞれ賃金引上げがされたものというべく、また、<証拠>によれば、原告らはいずれも昭和五五年四月一日から定率配分6.5パーセントの割合で賃金引上げがされたことが認められ、また、弁論の全趣旨によれば、被告会社における賃金の支払期日は、毎月二五日であることが認められる。
そして、<証拠>によれば、原告らの昭和五一年度の夏季一時金は2.4ケ月プラスアルファ、冬季一時金は3.4ケ月プラスアルファ、昭和五二年度の夏季一時金は2.2ケ月プラスアルファ、冬季一時金は3.2ケ月プラスアルファ、昭和五三年度夏季一時金は2.3ケ月プラスアルファ、冬季一時金3.5ケ月プラスアルファ、昭和五四年度の夏季一時金は2.2ケ月プラスアルファ、冬季一時金は3.6ケ月プラスアルファ、昭和五五年度の夏季一時金は3.3ケ月プラスアルファであり、その現実の支給額は、基本給に、別紙一時金支払月数一覧表の数字を乗じたものであること、そして、弁論の全趣旨によれば、右一時金はいずれもその妥結の都度支払われたことが認められる。
2 次に、原告中塚が昭和五四年五月三一日に被告を退職したことは当事者間に争いがなく、また、<証拠>によれば、原告尾崎が昭和五三年七月三日に、同柴田が昭和五四年二月二八日に、同山本が昭和五五年一月三一日に、同河南が昭和五三年八月二一日に同片桐が昭和五三年一月二五日に、それぞれ被告を退職したことが認められる。
3 しかして、前記1の通り賃金引上げがされた場合における別紙請求債権目録1、2記載の各原告らの昭和五一年四月一日からの賃金引上げ額が同目録1、2の各(1)欄記載の金額であり、別紙債権目録3記載の各原告らの昭和五二年四月一日からの賃金引上げ額が同目録(1)欄記載の金額であり、別紙請求債権目録4記載の各原告らの昭和五三年四月一日からの賃金引上げ額が同目録4の(1)欄記載の金額であり、昭和五四年四月一日からの賃金引上げ額が同目録4の(3)欄記載の金額であること、以上の事実についてはいずれも当事者間に争いがなく、また、<証拠>によれば、前記退職した原告らの退職一時金率は、原告尾崎については基本給の5.10ケ月分、同柴田については同じく4.60ケ月分、同山本については同じく9.40ケ月分、同河南については同じく7.70ケ月分、同片桐については同じく5.10ケ月分、同中塚については同じく7.90ケ月分であることがそれぞれ認められる。
4 従つて、(イ)、別紙請求債権目録1記載の各原告らのうち原告西本を除くその余の各原告らの昭和五一年四月一日から同五五年一〇月三一日までの賃金引上げに相当する賃金及び一時金の合計額は、右各原告らに対応する右目録1の(2)(3)(4)(15)の各欄に記載の金額の合計額((21)欄の認容額)ないしはこれを超える額に、昭和五五年一一月一日以降の一ケ月の賃金差額は同じく右目録1の(5)欄((24)欄)に記載の金額ないしはこれを超える額に、原告西本の昭和五一年四月一日から同五五年一〇月三一日までの賃金引上げに相当する賃金及び一時金の合計額は、原告西本に対応する右目録1の(2)(3)(4)欄に記載の金額と金二五万〇四一三円(右目録1の(15)欄の括弧内の金額)の合計額((21)欄の認容額)である金七九万九四三三円に、昭和五五年一一月一日以降の一ケ月の賃金差額月額は右原告西本に対応する右目録1の(5)((24)欄)に記載の金額に、(ロ)、別紙請求債権目録2記載の各原告らの昭和五一年四月一日から各自退職するまでの右賃金引上げに相当する賃金、一時金及び退職金の合計は、右各原告らに対応する右目録2の(2)ないし(12)の各欄に記載の金額の合計額((15)の認容額)ないしはそれを超える額に、(ハ)、別紙請求債権目録3記載の各原告らの昭和五二年四月一日から同五五年一〇月三一日までの右賃金引上げに相当する賃金及び一時金の合計額は、右各原告らに対応する右目録3の(2)(3)(4)(13)の各欄に記載の金額の合計額((19)欄の認容額)ないしはこれを超える額に、昭和五五年一一月一日以降の一ケ月の賃金差額月額は、右各原告らに対応する右目録3の(5)欄((22)欄)に記載の金額ないしはこれを超える額に、(ニ)、別紙請求債権目録4記載の各原告らのうち、原告朝広、同平尾、同長井の昭和五三年四月一日から同五五年一〇月三一日までの右賃金引上げに相当する賃金及び一時金の合計額、並びに、原告中塚の昭和五三年四月一日から退職するまでの右賃金引上げに相当する賃金、一時金及び退職金の合計額は、それぞれ右各原告らに対応する右目録4の(19)欄に記載の金額に、原告朝広、同平尾、同長井の昭和五五年一一月からの一ケ月の賃金差額月額は、右各原告らに対応する右目録4の(6)欄((22)欄)に記載の金額にそれぞれなることは、計算上明らかであつて、右に反する原告らの主張は失当である。
5 よつて、被告は、原告らに対し、右賃金引上げに相当する賃金、一時金及び退職金等を支払う義務があり、なお、昭和五五年一一月分以降の賃金差額については、これを毎月二五日に支払う義務がある。
6 次に、原告らは、被告の右賃金、一時金、退職金等を支払わない債務不履行ないし不法行為による精神的苦痛を受けたとして金三〇万円ないし六〇万円の慰謝料の請求をしている。しかしながら、本件は、遅滞にかかる金銭債務の履行を求めるものであるところ、民法四一九条は、金銭を目的とする債務の履行遅滞による損害賠償の額は法律に別段の定めがある場合を除き、約定または法定の利率により、債権者はその損害の証明をする必要がないとされているが、その反面として、たとえこれ以上の損害が生じたことを立証しても、その賠償を請求することはできないものと解すべきである(最高裁判所昭和四八年一〇月一一日判決・判例時報七二三号四四頁参照)。したがつて、被告の債務不履行を前提とした原告らの慰謝料請求は、この点において失当である。また、被告の不法行為を理由とした慰謝料請求については、前述の如く、原告らが契約上の権利に基づき、賃金、一時金、退職金等の支払請求権を有している以上、原告ら主張の被告の不当労働行為によつて右請求権が侵害されたとはいい難いから、被告の右賃金等の不払がさらに不法行為を構成するものとは解し難い。のみならず仮に不法行為を構成するとしても、被告が右賃金等を支払わないことによる損害は、純然たる財産的損害であるというべきところ、このような財産的損害を受けた場合には、その財産的損害が賠償されれば精神的損害も一応回復されたと解すべきであつて、ただ右財産的損害を回復されてもなお回復され得ない精神的損害を受けた特別の事情がある場合に限つて、精神的損害の賠償を請求し得るものと解すべきである。ところで、本件においては、原告らが財産的損害を回復されてもなお回復され得ない精神的苦痛を被つた特別の事情の存在については何らの主張立証がないのみならず、本件は単なる金銭債務の不履行に起因するものであるから、原告らが右財産的損害の回復によつて回復され得ない精神的苦痛を被つたものとは到底認め難い。
よつて、慰謝料の支払を求める原告らの請求は、その余の点につき判断するまでもなく失当である。
7 次に、原告らの弁護士費用の請求について判断するに、本件において、原告らは第一次的には契約に基づいて賃金、一時金、退職金等の金銭債権の支払を求めているものであるところ、一般に債権者は、民法四一九条の規定の趣旨に照らし、金銭債務の不履行による損害賠償として、債務者に対し弁護士費用の請求をすることはできないと解すべきである(前掲最高裁判所昭和四八年一〇月一一日判決参照)。また、被告の不法行為を理由とした弁護士費用についても、被告の本件賃金、一時金、退職金の不払いが不法行為を構成するものと認め難いことは前述の通りであるし、仮に、不法行為を構成するとしても、不法行為による弁護士費用は、不法行為の被害者が自己の権利保護のため訴を提起することを余儀なくされ、訴訟追行を弁護士に委任した場合に限つてその賠償が請求できると解すべきところ(最高裁判所昭和四四年二月二七日判決・民集二三巻二号五二五頁参照)、本件においては、原告らは前記の如く契約上の権利に基づいて未払の賃金、一時金、退職金の請求をできるのであるから、不法行為による損害賠償の訴の提起を余儀なくされたものとは到底認め難い。
よつて、弁護士費用の支払を求める原告らの請求は、以上いずれの点からするも、その余の点について判断するまでもなく失当である。
七結論
よつて、原告らの本訴請求は、被告に対し、雇傭契約上の権利に基づく賃金、一時金、退職金の支払請求として、(イ)、別紙請求債権目録1記載の各原告らにおいて、右各原告らに対応する右目録1の(21)の認容額欄記載の各金員及びそのうち右各原告らに対応する右目録1の(22)欄に記載の各金員に対する昭和五二年(ワ)第一一六八号事件の訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五二年三月一七日から、同(23)欄に記載の各金員に対するその支払期日後の昭和五五年一一月一日から右各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、並びに、昭和五五年一一月から毎月二五日限り右各原告らに対応する右目録1の(24)欄に記載の各金員、(ロ)、別紙請求債権目録2記載の各原告らにおいて、右各原告らに対応する右目録2の(15)の認容額欄に記載の各金員及びこれに対する右各原告らが退職した日の翌日である原告尾崎については昭和五三年七月四日から、原告柴田については同五四年三月一日から、原告山本については同五五年二月一日から、原告河南については同五三年八月二二日から、原告片桐については同年一月二六日からそれぞれ右支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、(ハ)、別紙請求債権目録3記載の各原告らにおいて、右各原告らに対応する同目録3の(19)の認容額欄に記載の各金員及びそのうち右各原告らに対応する右目録3の(21)欄に記載の各金員に対する昭和五三年(ワ)第七一二二号事件の訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五三年一二月六日から、同(21)欄に記載の各金員に対するその支払期日後の昭和五五年一二月一日から右各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、並びに、昭和五五年一一月から毎月二五日限り、右各原告らに対応する右目録3の(22)欄に記載の各金員、(ニ)、別紙請求債権目録4記載の各原告らにおいて、右各原告らに対応する右目録4の(19)の認容額に記載の各金員及びそのうち右各原告らに対応する右目録4の(20)欄に記載の各金員に対する昭和五五年(ワ)第二〇五〇号事件の訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和五五年四月一一日から、同(21)欄に記載の各金員に対するその支払期日後の昭和五五年一一月一日から右各支払済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金、並びに、右目録4に記載の原告らのうち原告朝広、同平尾、同長井において昭和五五年一一月から毎月二五日限り右各原告らに対応する右目録4の(22)欄に記載の各金員の支払を求める限度で正当であるからその限度で認容することとし、その余の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(後藤勇 草深重明 小泉博嗣)
請求債権目録1〜4<省略>
一時金支給月数一覧表<省略>